~大人への憧れから育つ~ 

子どもの頃、大人のすることすべてがおもしろそうで、魅力的で、真似をしたいと思っていました。母親の料理や化粧、父親の髭剃りやネクタイなどチャンスがあればやってみたいと目を輝かせて見ていた記憶があります。

「何を使うんだろう」「どうやってやるんだろう」「次は何をするんだろう」・・・大人のしぐさ、手順、道具などすべてがキラキラと輝いて見えたものです。

これは大人への「憧れ」です。「あんなことやってみたい」「あんなふうになりたい「あれを使ってみたい」」という憧れの気持ち」は「観察する力」「工夫する力」「挑戦する気持ち」「できるまで頑張る気持ち」などの原動力です。

今回のコラムのテーマの「文字の読み書きへの憧れ」の例をいくつかあげてみます。

★新しいクレヨンの一本一本に名前を書いてくれるお母さんを見て、「うわぁ、自分お名前がいっぱいで、嬉しい!!私も書いてみたいな。」

★書類にかっこよくサインしているお父さんを見て、「縦とか横とかいろいろな書き方があっておもしろい!!まねっこしてみよう。」

★漢字練習をしているお兄ちゃん「小さい四角の中にたくさん書いてて、すごい!学校のお勉強っていいな。早く小学生になりたい。」

★お友だちに手紙を書いているお姉ちゃん「きれいな色ペンがいっぱい!!お友だちと交換してていいなー。私にも色ペン、かして!」

★川柳を筆で書いているおじいちゃん見て、「すらすら、くねくね書いてる!!やってみたいな。おじいちゃん、教えて!」

★絵手紙を描いているおばあちゃんを見て「絵も字も書けるなんて、すごすぎる!!ちゃんと言うこと聞くから教えて!!」

★出席簿を見ながら出欠をとっている保育園の先生を見て「お名前を呼んだり、お返事したら〇って書いたり、いろいろやってすごい!!よーし、先生ごっこするぞ!!」

どのお子さんも「大人への憧れ」から自然と「文字の世界への興味」を持っています。自分から持った興味はたくましく、新しいことをどんどんと吸収していきます。「無理やり」や「押し付け」「いやいや」は気持ちも頭も縮こまって「覚える」ときのブレーキになりがちです。「自分から、楽しみながら」という姿こそが学びには欠かせないのです。

今回のコラムのテーマ「文字の読み書き」「大人への憧れ」が「知る、興味を持つ、覚える」ということから学びが始まります。大人への憧れから文字への興味を持ち、自然と読んだり書いたりするまねごとが始まります。

お子さん本人は大人になりきって、すまし顔で大人のまねをします。絵本を読んでくれるお母さんのまねっこ、新聞を読んでいるお父さんのまねっこ、教科書の音読の宿題をする兄弟のまねっこ、ニュースを読むアナウンサーのまねっこなど・・・「文字を読む」という姿を見て、あこがれ、「絵とは異なる文字」という存在を知るのです。

それからだんだんと文字の一つ一つに読み方が決まっていることに気が付きます。きっかけは自分の名前のことが多いようです。見慣れ、聴きなれている名前の並びがいつも同じ「文字」であることから読み方を少しずつ知るのでしょう。もしかしたら「読む」というよりも「みつける」「発見する」という感じなのかもしれません。絵本を眺めていたら「“あ”みーつけた!」、スーパーのみかん売り場で「“み”があった!」などまるで宝物を発見するようなワクワク感で世界を広げていくのでしょう。

                                                      

そして「憧れの気持ち」がさらに高まり、「文字らしきもの」を書き連ねだします。大人から見ると、ただの〇が並んでいるだけに見えたり、ミミズの行進のように見えたり、鏡文字だったり、文字とは言いにくいものなのですがこれが文字書きの第一歩。夢中になっていくつもいくつも書く経験を積むことで、筆具の持ち方が上手になったり、筆圧が安定したりします。何事も「あんなふうに書いてみたい」という憧れが興味関心を育て、自分から楽しく繰り返し練習し、上達していきます。

「読み方の決まり」に沿って「文字を読む」ことを身につけていくのと同じように、書き方の決まり」に沿って「文字を書く」ことへ高まっていきます。「どうやって書くのか知りたい気持ち」=「知識欲」が芽生え、ぐんぐんと育っていきます。

そうすると「文字らしきもの」を自由に、思う存分、とにかくたくさん書く段階から「それらしく」「本物みたいに」書きたくなります。「〇ってどうやって書くの?」とお子さんがきいてきたら、一緒に書いたり、なぞれるように薄く下書きをかいたりしてあげましょう。

もしかしたら形や書き方がシンプルな「し」「い」などよりも「お」「む」「ね」など入り組んだ文字を書きたがるかもしれません。わくわくが大好きな子どもにとっては、なんだか迷路みたいにくねくねした文字に魅力を感じて、やってみたくなるのでしょう。

この時、書き順が正しくなくても、文字の大きさ不揃いでもお小言はぐっと飲み込み、興味を持っていることをとにかくたくさん誉めることが大切です。「文字のことを聞くと、がみがみ言われてめんどくさいなー」「上手に書けないと叱られちゃうからいやだなー」という気持ちが大きくなってしまうと、意欲も知識欲もしぼんでしまい、「知ること、学ぶこと」=「学習全般」が嫌いになってしまう可能性があります。一度なってしまった「学習嫌い」をとり返すのは至難の業です。順調に芽生えた「文字への興味」を摘み取ってしまわないように、初めの段階では気持ちよく、一緒に読んだり書いたりすることを楽しみ、誉め、リラックスして繰り返せる場を大切にしましょう。

「文字の読み書き」を通して「字っておもしろいね」「書けるようになるとかっこいいね」「ママもパパも小さいときにおばあちゃんに教えてもらったよ」など楽しい時間を過ごしてください。

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